84 センバツ |
■「心のすきが一番の敵」 |
![]() |
「侮しさを味わったことが、今の原動力になっている」 (小坂将商監督) 昨年8月18目、阪神甲子園球場。 県代表の智弁学園は準々決勝万作新学院(栃木)と対戦した。3万5000人の観衆で埋まったスタンド。6-5と1点リードし、最終回を迎えていた。 マウンドには2年生エース、青山大紀。「ここを抑えればと考えてしまった」。 無死から連打を浴びて同点とされ、犠飛で勝ち越されて逆転負け。 16年ぶりの4強進出は、目前で指の間からすり抜けた。 3回戦の横浜戦では3点を追う九回に一挙8点を挙げる大逆転を見せたばかり。グラウ ンドから引き上げた通路で選手らは泣いた。 「諦めずに戦えば分からないと横浜戦で学んだ。しかし、作新戦でその経験を生かせなかった。選手の悔しさは大きかっただろう」と苔九康勝部長は振り返る。 新チームには甲子園を経験した2年生8人が残った。センバツにつながる秋季近畿地区大会の県予選は10日後に迫っていた。「心のすきが一番の敵」。 青山は胸に刻み込んだ。 智弁は県予選を順当に勝ち上がり、準決勝では宿敵・天理をコールド勝ちで降した。しかし、10月10日にあった決勝で奈良火付に6-7でサヨナラ負けを喫する。夏の敗北と同じスコアに嫌な空気が流れた。 うつむく選手たちに小坂監督はミーティングで声を掛けた。 「いつまでへこんでいても何も変わらない。近畿で挽回したらいい。優勝して東京(明治神宮大会)に浬れてってくれ」。もう一度、全員が前を向いた。 2週間後、臨んだ近畿大会の初戦。青山は改めて夏の教訓を反すうしていた。 「勝っていても何か起こるか分からない。気を引き締めて投げ続けた」。夏の甲子園に出場した東大阪大柏原(大阪)をわずか2安打で完封する会心の投球を見せた。 準決勝以降は、控えの小野耀平、木村拓也がマウンドを守った。打撃陣もしっかり援護。監督に誓った通り、ついに近畿大会初優勝をつかんだ。昨夏の甲子園も経験している小野は「気持ちを引きずらず、切り替えて投げられる集中力がついてきた」と表情を引き締める。 「Family」。主将の中道勝士のグラブの内側には、そんな文字が刺しゅうされている。悔しい敗北を経て団結は確実に強まってきた。 「甲子園に優勝という忘れ物を取りにいく」。ナインの決意に揺るぎはない。 【山崎一輝】 |